大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和28年(あ)16号 判決 1953年9月24日

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人三名の弁護人平野光夫の上告趣意第一点について。

東京高等裁判所が昭和二四年一二月一二日間接国税以外の国税に関する犯則事件についても収税官吏の告発がその公訴提起の訴訟条件である旨の判断をしたこと、並びに、原判決が同犯則事件については収税官吏の告発は訴訟条件とならないものと判断したことは、所論のとおりである。従って、原判決の右判断は明らかに前記東京高等裁判所の判断と相反する判断をしたものといわなければならない。しかし国税犯則取締法就中同法一三条乃至一九条によれば、収税官吏間接国税に関する犯則事件の調査を終ったときは、例外として直ちに告発する場合を除き、原則として所轄国税局長又は所轄税務署長に報告又は通報し、局長又は署長は、調査に依り犯則の心証を得たときは、原則として通告処分を為し、心証を得ないときはその旨を犯則嫌疑者に通知し物件の差押あるときはこれが解除を命じ、更らに、通告処分をした場合犯則者これを履行したときは同一事件につき訴を受けることはないが、二〇日以内に履行しないときは局長又は署長は告発の手続をしなければならないものであって、要するに、同法は、間接国税の犯則については、原則として国税局長又は税務署長において犯則の心証ある場合に犯則者をして金刑に相当する金額等の納付を任意履行させて事件を終局的に処理せしめることを建前とし、例外として刑事手続で事件を処理せしめることを適当とするときに限り、収税官吏、国税局長又は税務署長をして告発の手続を執らしめようとしたものである。従って、間接国税の犯則についての右の告発は、公訴提起の訴訟条件と解するを相当とする。しかるに、間接国税以外の国税に関する犯則事件については、同法一二条の二において、収税官吏が事件の調査により犯則ありと思料するときは告発の手続を為すべき旨規定するに止まり、間接国税におけるがごとき前記通告任意履行等の規定が存しないから、収税官吏の告発を以て公訴提起の訴訟条件と解することはできない。それ故、当裁判所は、刑訴四一〇条二項に従い、前記東京高等裁判所の判例を変更して原判決を維持するを相当とする。従って、論旨は結局理由がない。

同第二点について。

所論は、結局事実誤認、量刑不当の主張に帰し、刑訴四〇五条の上告理由に当たらないし、また、記録を精査しても同四一一条を適用すべきものとも認められない。

同第三点について。

所論は、違憲をいうが、第一審判決は所論顛末書を証拠としていないから、所論は結局第一審裁判所が同顛末書につき証拠調をしたことに関する単なる訴訟手続違反を主張するに帰し、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。そして、所論の事由では同顛末書が強制によるものであるとはいえないし、その他強制の事実を認めることができないから、同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって、刑訴四〇八条、四一〇条により、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 斎藤悠輔 裁判官 真野 毅 裁判官 岩松三郎 裁判官 入江俊郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例